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  この世のすがた

2002/09



 新聞に「60億人の未来に背を向ける米国」というドキッとするような見出しが踊っていました。
 8月末、南アのヨハネスブルグで開催される史上最大の国際会議環境・開発サミットに、ブッシュ大統領が欠席を表明し、世界中のメディアがアメリカに対する不信感を露わにしました。
 世界一の二酸化炭素の排出国でありながら、温暖化防止のための京都議定書を「現実的ではない」と突然拒否し、その後の環境問題に対する世界的な協調に背を向けた国、アメリカ。
 ある環境保護団体は、米国企業が大統領に会議への欠席を求めた手紙を暴露して「地球市民の利益に背を向け、業界の意向に従った」と、痛烈な批判を繰り広げ、緊張も高まってきております。
 会議は160ヶ国の代表が真摯に議論を重ねながら、それぞれの国の立場や状況を主張し、合意点を模索してゆくと思います。
 私は、ここで新聞と同じことを書くつもりはありません。ただ、「崖っぷち」と言われる地球環境、ヨーロッパや中国を襲った大洪水、北米やオーストラリアでの大 干魃、ヒートアイランドを実感した今夏と台風の異常な進路を見ながら、もう一度世の中の有り様から御仏の教えを見つめるべき時であると思うのであります。
 善も悪も、政治的な駆け引きや宗教的な対立の構図の中で語られています。環境問題だけではなくイラクへの空爆も秒読みとされ、不幸な戦争がまた始まろうとしています。徹底的に競争を称賛し、欲望を追求し、憎しみまでも増長させる経済システムや政治手法。メディアを通じた情報の操作にも辟易しますし、その中で育つ子供の未来を考えると、今後の世界で起きるであろう不測の、いや必然の不幸が思い浮かぶのです。
 対立や混乱を繰り返し、欲望の赴くままに増殖してきた人類は、未だ真実の「この世のすがた」を知りません。偏った世界観を説く宗教を信じているために、人類は愚かな歴史を繰り返してきたのではないかと思えるのです。
 信仰や宗教は、世界の成り立ちや人と自然、人と動物、人と人との関係など、「この世のすがた」を説きます。しかし、この世界の原理原則とも言うべき「方程式」が間違っていると大変不幸なことになります。
 方程式が間違っていれば問題は解けません。一度間違って覚えてしまうと永遠に答えは出ません。
 宗教が差別を説けば差別は永遠に無くなりません。宗教が特定の民族を優遇すれば民族同士の抗争は永遠に続きます。宗教が戦争や領土拡大を必要と説けば、正義と称して戦争は正統化され、不幸な憎悪の連鎖が永遠に繰り返されることになります。
 悲しいことですが、このような明らかに偏った「この世のすがた」を説く宗教が世界には満ちており、多くの人々がこのような世界観を抱きながら生きているのです。これは、非常に不幸なことであり、本当に恐ろしいことでもあります。
 御仏が説かれたのは、いままで人類が知ることもなかった、ありのままの「この世のすがた」です。宇宙法界の姿、自然界の姿、人間の姿を明らかにするという、当に前代未聞の「この世のすがた」を説かれたのであります。
 それは、崖っぷちに立たされた人類にとって、最も必要な教えであり、世界観であると確信します。
 人類の短い歴史の中でも、不幸で愚かな出来事は繰り返し起きています。そのような出来事を振り返ると、偏った世界観がどれだけ多くの傷跡を残してきたかが分かります。
 1492年、ジェノバ生まれのコロンブスが、いまや世界の覇権を握るアメリカ合衆国、新大陸を発見しました。偉大な冒険家コロンブスは、大航海時代の誰もがそうであったように、ヨーロッパの権益拡大の為に征服戦争を繰り返した覇権主義者であり、植民主義の申し子でした。
 彼は、エスパニョーラ島に7つの城塞を建設して内地への征服戦争を開始し、征服した土地を分配し、原住民に強制的な賦役を命じました。その苛酷な支配で3年間で300〜400万人いたと推定される原住民の3分の2が生命を奪われたという事実があります。
 1500年8月、コロンブスは船員に対する過重労働強制とインディオに対する不当な戦争などの告発で逮捕され、本国に送還されます。その告発を受けた彼の弁明は、「私は新世界をわれらが国王ならびに女王陛下の支配下におき貧乏なスペインを世界一の富裕国とした」というものでした。
 コロンブスの苛酷な支配と奴隷貿易は後継の者にも受け継がれ、1519年の時点でエスパニョーラ島の原住民は1000人しか生存が確認出来なかったということです。
 当時の宗教が示す世界観では、他の土地を征服し、資源を搾取し原住民を虐殺してもさほど罪の意識を感じなかったということです。現代よりも厳格な信仰心が人々にありながら偏った世界観を信じ、持ち続けたために後世に恥じる重大な過ちを犯してしまったのです。
 中米・メキシコで栄えたアステカ文明もコルテスが率いる550人の兵士と14門の大砲、16頭の馬によって滅ぼされました。
 ピサロもわずか186人の兵と火縄銃13丁でインカ帝国に侵入。最後の皇帝アダワルパを幽閉して精巧な黄金製品を手に入れました。
 さらに皇帝に偶像崇拝、近親婚一夫多妻の罪をきせ、火刑に処すと宣告しました。インカでは火刑にされた魂は永遠に死滅するとされていました。そのことを知ったピサロは「キリスト教に改宗すれば絞首刑にしてもよい」と申し渡しました。
 失望の中で語ったアダワルパの言葉が残されています。
 「汝のいう教皇(法皇)は、己のものでない国土を他に与えるなどというところからみると、狂っているに違いない。余は信仰を変えようとは思わぬ」
 当時の人々の世界観からするとコルテスもピサロも、自分がどれだけ愚かなことをしたか、気づくことはなかったでしょう。当時の宗教指導者や宗教そのものが、今考えれば蛮行と思われる行為の後押しや裏付けをしていたのです。
 私は、世界の歴史を振り返れば旧約聖書から派生した宗教とその宗教が説く世界観が、人類にとってどれだけ多くの不幸を招いてきてしまったかを指摘したいのです。
 キリスト教文化の華やかさ、教会の素敵な雰囲気、宗教画の素晴らしさ。それら周辺の素晴らしさは認めた上で、宗教としての世界観の偏重を知るべきだと思うのです。
 今、世界が抱えている諸問題、相次ぐ紛争や環境破壊、温暖化の問題についても、私たち一人一人が偏っていない、正しい「この世のすがた」を知ることが何よりも大事であると考えます。
 会議が成功し、合意の中で人類の明るい未来が約束されることを期待していますが、時間がありません。政治的解決や協議の重要性は理解していますが、何よりも私たち一人一人の心が大事です。
 自分の周りを見渡せば、モノが溢れ、平和過ぎて危機感も生まれませんが、今は一等船室で安眠していても、宇宙船地球号の船底はボロボロで今にも朽ちて大きな穴が空いて沈んでしまいそうです。
 まず、正しい「この世のすがた」を知るために御法門を聴聞しなければなりません。そして、一人でも多くの人にその教えを伝えなければなりません。
 一天四海皆帰妙法とは、世界中に御題目を伝え広め、人類全てにありのままの「この世のすがた」を知らしめることです。
 真実の仏教を世界に伝えてゆくことこそ、環境破壊や戦争を回避することになると確信しています。


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