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  菩薩の誇りを

2003/04



 米国が劣化ウラン弾を使用すると聞き、愕然としました。人類の愚行はいつまで続くのでしょうか。
 1991年の湾岸戦争。米英軍は新兵器の劣化ウラン弾をイラク軍に対してはじめて実戦で使用しました。劣化ウランとは、原子力発電所などから出る核廃棄物です。これを混ぜることで安価で密度の高い弾丸の製造が可能で、表面に使うだけでどんな装甲も打ち破る対戦車砲が出来ると言われます。劣化ウランは放射能であり、当然人体に被害を与えます。しかし、戦場で「敵」にのみ使用することは構わないとし、米軍は湾岸戦争やコソボ戦争などで繰り返し使用してきたのです。
 湾岸戦争後、子供の先天性異常や小児癌が増え、イラクでは子供の死因として癌は7位から4位になりました。また従軍した米英の兵士にも多くの異常が報告されており、女性兵士キャロル・ビコーさんは脳障害・甲状腺異常を発症。出産した子供には甲状腺がありませんでした。
「バスラ小児科産婦人科病院」や「バクダッドマンスール病院小児科白血病専門病棟」は1995年ごろから劣化ウラン弾が原因と思われる白血病やガンの患者が増え、特に小児や胎児に被害が大きい為に作られた小児産婦人科病院です。日本で話題になっている「電池が切れるまで」の長野県こども病院と変わりません。罪のない子供達がご両親と共に、今日も重い病気と戦っているのです。
 政治的にこの戦争を論じ、国益として論じ、世界的なバランスで論じ、大量破壊兵器の恐怖で論じ、文明と民族を論じ、軍事的な作戦で論じることも大きな意味はないと考えます。大本営発表は第二次世界大戦の日本に限ったことではありません。情報の渦で右往左往する時間など無駄です。この戦争では人間の愚かさを思い知ることしか出来ないと感得します。徹底して愚かな人間という生き物を。
 人間の「心」の愚かさが戦争を繰り返しています。自己中心的な心や他を断罪する心。歴史が証明しているように、国家や指導者が変わっても、戦争は繰り返され、勝者によって正当化され、罪のない人々、特に子供たちが苦しんできたのです。これらは単に他国の話ではありません。
「もう、この国は壊れています」というニュースのコメントが耳に残っています。インターネットの掲示板で知り合った若者が相次いで自殺をする世の中。生きたくても生きられない人がいる中で愚行を繰り返す者は絶えません。親子や夫婦の相次ぐ殺人事件、政治や経済のシステムの老朽化、深まる貧富の差。右肩上がりを盲信した投資型社会の終わりのはじまり。医療や教育など、あらゆる分野で大切なものが崩れようとしている瞬間なのかもしれません。
 しかし、壊れているのは「国」や「世界」や「国連」ではなく、人々の「心」なのです。
 奇跡の星に生まれた人間という知的生命体。宇宙や生命の神秘に近づける素晴らしい可能性を持ちながら、生命の連鎖から逸脱し、欲望と怒りと愚かさという悪癖によって傷つき、傷つけ合う人類。このまま人間が迷い、低い視点と狭い視野のままでいたなら、人類そのものの「終わりのはじまり」が訪れるに違いありません。
 世界は、混迷から抜け出すことが出来るでしょうか。人々は迷いから抜け出せるでしょうか。怒り、憎み、妬み、誇り、驕り、苦しむという根源は、私たち一人一人の心から生まれているのです。心が迷う故に苦しみの世界が続きます。迷っているから愚かな日々を送り、後悔もします。迷っていることに気づくことがなければ、人は永遠に悪循環を繰り返します。
 御仏は、苦しみ続ける私たちや傷つけ合う人々をご覧になって、迷いから抜け出すことの大切さを教えられています。迷路から抜け出すこと。エゴや気まぐれな善意、欲望や慢心という迷路。
 迷路の出口は、低い場所からは見つけられません。地図は高い所から見渡した俯瞰で描かれます。一人の人間にとっても、人類全体にとっても、この俯瞰から眺める広大な視点こそ、出口を見つけ、迷いから抜け出すために必要です。
 アメリカは実に偉大な国でした。1969年、アポロ計画によって人類は月に到達をしました。月の砂漠の向こう側に青い地球の姿を見るという画期的な大事業に成功したのです。これは究極の俯瞰の視点と言えます。宇宙から地球を見れば、私たちが個々に認識する海や山、動植物と人間、国と国、自分や他人等も一つの地球というシステムの中に組み込まれた存在として認識できます。アメリカは勿論、世界中の人々がこの大事業の本当の成果であり、明日の人類にとって必要不可欠な視点を忘れてしまっているように感じます。
 旧約聖書に端を発するユダヤ教キリスト教、イスラム教は敬虔な信仰者を育む一方で、非常に狭く非常に低い視点を強要しています。地動説を長く退け、民族や人種の選別や優劣、ある土地を聖地とし、戦争をも容認する神は、宇宙から地球を眺める俯瞰の視点を曇らせ、人々を迷わせてしまうのです。
 イラクに展開する米国軍には、戦場でミサを行うために500人に一人の割合で牧師が従軍しています。その牧師が「戦士たちは戦場で敵を殺すことになるでしょう。そんな彼らに、イラク兵が憎くて殺すのではない、人々の理想の為に殺すのだ、と伝えて安心させています。この戦争で人を殺すことは私は正当化されると思います」と話していました。私は、背筋が凍り付きました。日本人が結婚式を挙げたがる西欧の神の思想。
 御仏の教えは、壮大な宇宙観を説かれております。望遠鏡もない時代に御仏は私たちに俯瞰の視点を与えてくださいました。真実の仏教、本門佛立宗の根幹の御法門では、宇宙の原初にまで遡る壮大な時間的スケール、三千大千世界という広大無辺な空間的スケールが顕されています。その上に宇宙の真理、上行所伝の御題目が示されるのです。大いなる視点です。
 私たちは、混迷する世界の中にあって、御仏の真実の教えを頂く者としての誇りを抱きましょう。
地獄の心、修羅の心がある人間が、菩薩の心を抱く。仏教徒としての誇りを持ち、世界に御仏の教えを宣揚すべきです。佛立の誇りは、菩薩の誇りです。一人の心から世界は変わります。私たちに出来ることは限られていますが、今こそ菩薩の誇りを抱くべき時です。


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